9月1日午後に予定しておりました本展セレモニーは、近日の新型コロナウイルス感染拡大を受け、感染予防の観点から中止とさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
本展覧会は、日本の美術大学で日本画を学んだ中国美術留学生たちの作品展である。
中日両国の長い歴史に目を向ければ、日本が中国に学ぶことが多かったが、近代ではその関係が逆転する。19世紀後半、アジアの他国に先駆けて近代化に成功した日本を訪れた多くの中国留学生のなかには美術留学生も含まれていた。特に日本画を学ぶ中国美術留学生は、西洋絵画を取り込んだ日本画を中国画改良の参考にしようとした。1906年に来日した高剣父(1879~1951)は帰国して「新国画」を唱導し、伝統中国画に「嶺南派」を創立する。また、1933年に来日した傅抱石(1904~1965)は、日本で東洋絵画史を研究し、筆墨に写生を取り込んだ「現代新山水画」を打ち立てた。彼らは、晩清民初の文人的な筆墨絵画における山水・人物・花鳥という各画域の様式を、絵画として現代化する道筋を拓いた。しかし、日中戦争などの不幸な時期を迎え、それまで盛んであった日中間の文化交流は途絶えてしまう。
胡耀邦総書記と中曽根首相による「日中友好二十一世紀委員会」(1984年)や日本政府の「留学生十万人計画」(1983年)を背景に中日の文化交流も再生し、東山魁夷・高山辰雄ら戦後日本画の旗手たち含む大規模な「日本美術展」が上海や北京で開催された。古典材料である岩絵具を活用した彼らの新しい日本画表現は、1980年代の中国現代工筆画の復興に影響を与え、中国の美術青年たちを大いに刺激して日本留学へと駆り立てた。
この時代に日本画を学んだ中国美術留学生は、岩絵具を使う技法の習得に留まらず、岩絵具の源泉を唐時代の彩色絵画に辿って「岩彩絵画」と命名した中国絵画を立ち上げた。水墨画とは異なる中国絵画の一脈を現代絵画として復興したことは中国美術史上における大きな成果であり、以後、現在の中国にも「岩彩絵画」は広がり続けている。
さて、本展に出品する美術留学生たちは、2010年代以降に来日したいわば「第三世代」といえる。中国に広まった「岩彩絵画」を通して岩絵具の表現を既に知っている彼らが改めて日本画を学ぼうとする動機は何か。周知の通り、2010年には中国の国民総生産GⅮPは日本を上回った。もはや何でも手に入る現在の中国を離れて学ぼうとする日本画の魅力とは何であろうか。
「問道扶桑」というのは、扶桑(=日本)でどんな表現を見つけましたか?東アジア絵画の未来を担うであろう彼らの作品、そして彼らの言葉から日中文化交流の現在地点を探ってみたい。
出品者名薄
白思遥 京都精華大学大学院日本画修士(在籍)
朱地塬 女子美術大学大学院日本画修士修了
韓錫武 女子美術大学大学院日本画修士(在籍)
陳 曦 多摩美術大学日本画学部卒業
陳美玉 多摩美術大学大学院日本画修士修了
張 慶 多摩美術大学大学院日本画修士修了
葛玲玮 多摩美術大学大学院日本画修士(在籍)
張彬文 東京芸術大学大学院保存修復日本画博士(在籍)
郝玉墨 東京芸術大学大学院保存修復日本画博士修了
甘 甜 東京芸術大学大学院保存修復日本画博士(在籍)
楽嘉怡 東京芸術大学大学院保存修復日本画修士(在籍)
苑 博 東京芸術大学大学院保存修復日本画修士(在籍)
張 騫 東京藝術大学大学院日本画博士(在籍)
李姝婭 多摩美術大学大学院日本画修士修了
呉卓謙 愛知県立芸術大学大学院日本画修士修了
展示期間:2021年8月30日(月)~9月10日(金)<土日祝休み>
10:30~17:30(初日は15時から、最終日は13時まで)
期間中イベント:
9月1日(水) 14:00 セレモニー開催
9月10日(金)11:00-12:30
講座:「日本美術院展と日本画の近代化」 (自由参加、応募不要)
講師:大竹卓民
張慶——『坂上の銀杏』(630x555mm) 2020年
甘甜——『抱薪者』(652X1590mm) 2020年
張彬文——『界』(727mmx910mm) 2020年
李姝娅——『錯綜』(530x455mm) 麻紙、岩彩 2018年
張騫——『公園の人』(1120x1620mm)