今回の展覧会は東晋田園詩人である陶淵明生誕1660周年を記念とし、会員が陶淵明の隠逸思想を讃える聯句の作品、また陶淵明詩句を選び各自が得意とする金文、隷書ばどの書体で表現した作品ばかりです。
翰墨書道会(会長郭同慶)の作品発表展は毎回、テーマを定め、基本的に一年おきに行っている。直近では八回展は恩師・王蘧常先生生誕120周年、九回展は大先生沈曾植翁没後100周年、十回展は呉昌碩生誕180周年といった具合である。今回は十一回展となるが、2026年には適当なテーマが見つからない。だが2025年なら、西暦365年に生まれた陶淵明の生誕1660周年の年に当たる。考えてみれば、日本は既に午年の新年を迎えているが、中国では展示会開催時はまだ旧暦の巳年12月である。テーマは、陶淵明の名句「采菊東籬下」から「東籬」を引用し、「東籬流響」と称することにした。
これまでと同様に今展示会でも、日中両国書壇の諸先生に、ご指導やご支援を戴いた。翰墨書道会名誉会長の蘇士澍先生には隷書で、中国現代書法巨匠の王冬齢先生には草書で、テーマの「東籬流響」をそれぞれ題字として書いていただいた。また、特別招待作として(年齢順)張海、星弘道、王冬齢、童衍方、蘇士樹、王運天、鮑賢倫、中村伸夫、河内君平の諸先生に、陶淵明詩句を依頼した。殆どの先生から陶淵明詩句で書いた大作を送っていただきました。
今展覧会での目玉は、在日中国人女性の四名(孫盈衣、張嘉心、蔡嘉楓、朱嘉之)からなるグループ展「翰墨華人四媛書展」(題字は星弘道先生)を企画したことである。それぞれが5,6点ほどの作品を出している。
またその他の会員は、創作と臨書各一点を出品している。創作は陶淵明詩句の中から一句を選び、各自が得意とする書体で表現している。蔡嘉楓の二幅「五柳先生伝」、朱嘉之の四幅「桃花源記」は、ともに当会の独自色でもある章草で書いた力作だ。また、陶淵明を讃える自詠聯句にも郭同慶と姜熊烽がチャレンジした。臨書作品では、藤村遠山の篆書四幅「石鼓文」、中島嘉瑛の二幅「居延・永元器物簿」(木簡書八枚から構成)、山田嘉洲の隷書四幅「張選碑」、張嘉心の五幅の「千字文」(章草十五枚で構成)、榎田嘉悦の隷書四幅「曹全碑」、田中嘉齋の楷書二幅「爨龍顔碑」、並びに郭燕禧の金文全臨作「大盂鼎」 など見応えのある作品がそろっている。また、行書と章草の二書体で比較しながら「蘭亭序」を書いた孫盈衣の意欲的な試みも注目される。更に、ニューヨーク転勤中の白石蓬山が多忙中にもかかわらず、「川流不息」の小作を寄せてくれた。

蘇士澍 隷書題字

王冬齢 草書題字
