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 東京の中国文化センターでは、江西省文化年第一弾として「江西儺面儺舞展」を開催し(会期:2月6日~3月2日)、中国の民間工藝美術師の羅春明氏が彫刻した約六十点余りの儺面(儺に使う面具)を展示しました。開幕した2月6日と翌日の7日には、会場に集まった日中の観客の前で、儺舞が演じられました。「儺舞藝術の郷」と呼ばれる、江西省南豊県から来た儺舞班(儺舞を演じるグループ)は、活発かつ精彩な儺舞を披露し、初めて「儺舞」を見る人々を魅了しました。
 
 2月7日には儺舞の実演の後に、早稲田大学文学学術院の稲畑耕一郎教授の「儺舞・儺戯の源流について」という講演がありました。講演の内容は出土文物や古い文献を通じて、儺舞の起源について探索したもので、集まった日本の聴衆に中国の古い儺舞の魅力をあますことなく伝えました。
儺舞
 
 儺とは?
 儺は民間に伝わる祭祀の儀式を基礎にして、その上に民間の歌舞や戯劇のエキスを吸収して造り上げられたものです。儺の起源は殷周時代の方相氏による儺の駆儺活動(厄払い)に始まり、漢代以降は次第に娯楽性の強いまた演劇的要素の濃厚な祭祀儀典となりました。およそ宋代前後に、儺儀は民間の歌舞や戯劇の影響下に、神格に感謝を捧げ、また願望を伝える内容に変遷していきました。
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 今回の儺面儺舞展は、数十種の儺舞・儺戯に用いられる面具を展示するのみならず、中国の民間工藝美術師の称号を持つ羅春明氏が会場において、儺面具の彫刻を実演して見せ、制作途中の面具や彫刻の工具も展示しました。
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江西省民間工藝美術師の称号を持つ羅春明氏が会場で儺面具の彫刻を実演

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彫刻台

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観客

 
 展覧会場に集まった100名を超える中日の観衆たちはそろって、「儺舞藝術の郷(中国江西省南豊県)」から来日した儺班による生き生きした儺舞の演技を味わいました。

500_nuo1南豊儺舞公演の様子

 
 南豊儺舞は、俗称を「南豊跳儺」といいます。なぜなら動作が簡潔素朴で力強く、原始的な舞踏の要素をもっているからです。「中国古代舞踏の生きた化石」と言われ、非常に古い民間藝術の一つです。南豊儺舞は2006年5月に、最初の「国家級非物質(無形)文化遺産項目名録(リスト)」に登録されました。
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「開山」   出演者:呉金芳

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開山の儺面

 
 儺舞で最初に登場するのは、「開山」という演目です。開山は、人類の誕生以前に、天地の混沌とした世界を斧で切り開いたという伝説に基づいた、天地創造の神です。儺舞の中では、演者は斧(まさかり)を四方に振り回して舞い、厄運や疫病を駆除します。
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「魁星」  出演者:呉泉仔

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魁星の儺面

 
 魁星は学業の神で、右手に筆を持ち、左手には墨の壺を持っています。魁星の筆に触れられると、必ずや試験に合格すると言われています。「魁」の字は足を跳ね上げたように見えますが、魁星の舞いもこのように足を跳ね上げて踊り、学業が順調に進むことを祈祷します。

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「哪吒」  出演者: 呉長泉

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哪吒の儺面

 
 哪吒は中国では皆がその名を知り、どんな人物かを知っています。哪吒の儺舞の特色は、彼の武器である乾坤圏を大きく振り回し、飛び跳ねて動き回ることです。これは哪吒が少年の神で、天真爛漫であることを表しています。

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「財神」   出演者: 呉応芳

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財神の儺面

 
 財神は邪悪を払い、財運をもたらす法力があるとされます。儺舞に登場する財神は、左手に金の元宝(昔の馬蹄銀)を持ち、右手には金の鞭(ムチのような武器)を持っています。これは、正直に真面目に働いた人には元宝を与え、卑劣な手段で利益を追求した人を鞭打つという意味です。

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「楊戬」   出演者: 呉小毛

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楊戬の儺面

 
 楊戬は又の名を二郎神といい、先が三つ叉になった刀を持ち、儺舞では悪人を懲らしめ退治する役です。

wechatimg62「鐘馗醉酒」 出演者:呉冬員、呉応芳、呉小毛
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鐘馗の儺面

 
 鍾馗は、鬼を捉えて邪悪を駆除する神です。儺舞では、酒盛りをしていた小鬼たちを注意するが、かえって小鬼たちに酒を勧められて、最後は一緒に酒を飲んで酔っ払うというユーモラスな話になっています。

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「儺公儺婆」 出演者:呉応芳、呉長泉

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儺公儺婆の儺面

 
 儺公・儺婆は、80歳を過ぎて子供が産まれた幸せな夫婦。儺舞では、子供を授かった老人二人が、赤ん坊の世話に大わらわというほほえましい一幕を演じます。儺公・儺婆は人類の祖先と言われ、この一幕は人々の子孫繁栄の願望を表現しています。

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「関公対刀」 出演者:呉冬員、呉金芳

 
 関公(関羽)と黄忠は『三国志演義』に登場する勇猛果敢な武将です。この二人の対陣は、このような勇気を得たいという人々の希望と、自分たちの村落を保護して欲しいという強烈で質朴な願望とを表しています。
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「観音坐蓮」 出演者:羅春明、呉泉仔、呉応芳、呉金芳、呉長泉、呉冬元、呉小毛

 
 最後に儺舞が最高潮に達したとき、「観音坐蓮」が舞われます。これは7人で舞う大がかりな舞いです。舞手はそれぞれ肩車をして円陣を作り、上下二段に組みます。蓮の花弁が開くように、上段の舞手が身体を外側に反らすと、中から合掌した観音菩薩が現れます。観音は古来より、五穀豊穣、子孫繁栄、招吉納福を祈求する吉祥の意味があります。この舞は、地元の人々のより良い暮らしへの祈願を表現しています。
 
 儺舞の上演ののち、早稲田大学文学学術院の稲畑耕一郎教授が、文物や古い文献を通して儺舞の歴史的根源を追う、「儺舞・儺戯の源流について」と題した講演をされました。

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稲畑 耕一郎教授

 
 教授によると、以前は中国には面具の文化はなかったと考えられていました。ところが実際はそうでなかった。それは四川で発見された三星堆の出土文物がよい証拠だといいます。中国は文献の大国ですから、時には文物が発掘されていない場合でも、つまり実物がなくても、文献に記されていることがあるのです。
 
 儺の歴史について。古代の書物『周礼』のなかに方相氏という人物についての記載があります。彼は儺儀のなかの重要な神祇で、最古の「鬼やらい」「駆儺」の神格です。その原形は漢から唐そして明清に到るまで、変化しつつ異なった文化的内容で変遷してきています。漢唐の時期は方相氏は「駆儺」の首領でしたが、明清時期には戯劇の影響下にしだいに娯楽的な要素を受け入れるようになりました。しかし儺によって鬼神を追い払う観念は一貫して続き、以後次第に固定した習俗活動の形式になって民間に伝承され、かつ盛んに行われてきたといいます。
 
 更に稲畑耕一郎教授は、日本の面具と中国の面具についても一定程度の関連性があると述べ、江西出土の殷(商)代の面具(左)と、日本の能面「般若」(右)には一定の相似性があるとしました。この種の形態の面具は、中国から日本に伝わった可能性を排除できないということです。

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 講演会のあとで、記者は儺舞を観賞に来た数人の日本人に取材して、儺舞を見た感想を述べてもらいました。
 
  60代日本人男性
 中国に写真を撮りに行ったときに「儺」に出会い、とても興味をもったのです。今日はそれで来ました。日本でこうした本場の人による儺舞の公演を観ることは非常に貴重で、実際とても素晴らしかったです。私は電気関係のエンジニアなので文化方面には余り縁がない仕事ですが、中国文化は幅広く奥が深くて、大変引きつけられます。中国のいろいろなところに行ったことがあるのですが、今後も更に多くの魅力ある中国文化を日本で紹介してもらえるとうれしいです。
 
  30代日本人女性
 儺舞を観るのは初めてです。今日の感想は、中国は広くて大きく、一面だけ見ていてはダメだということです。私は今日の実演を観て、中国に対する印象が一変しました。面具はとても綺麗です。中国は本当に広くて深い。江西南豊からこんなに素晴らしい儺舞を紹介してもらって、とっても感謝しています。
 
  20代日本人男性
 私は演劇研究専攻です。儺舞についてはずっと前から聞いていましたが、実物を目で観るのは初めてです。ほんとに現地の人が演じていて、想像とは違って、服装その他を含めてとても特色があります。まるで現地に行って見たみたいです。こうした活動は、私の研究に対してすごく刺激になります。非常に有益でした。
 
 今回、東京で開催の「中国江西儺面儺舞展」が大好評を博し、主催者として中国文化センターは大いにやりがいを感じています。今後も続けて豊富多彩な中国文化の紹介活動を盛り上げていく所存です。日本におられる華人の方々も日本の友人の皆さんも共に、進んで活動にご参加ください。


期日: 2018/02/07 〜 2018/03/02
時間: 10:30~17:30
会場: 中国文化センター
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